中村要と R.スコフィールドの往復書簡(6)

中村要と R.スコフィールドの往復書簡

(42)1926年5月27日 中村よりスコフィールドへ(手書き)

拝啓

カルバーの平面鏡を送っていただき、ありがとうございます。基準平面鏡でテストしたところ、間違いなくカルバーの作品であることがわかりました。ただ、ごくわずかに不規則な点が見られますが、害はないでしょう。もし、プリズムの方が良いと思ったなら、その銀メッキの状態に疑問が生じますます。この素晴らしい平面鏡は、それほど深刻にイメージを壊すことはありません。古くて貧弱な銀メッキは、しばしばイメージを損ないます。最近、私は光学的に優れたいくつかのプリズムといくつかの平面鏡を比較してみましたが、どのプリズムも平面鏡には及びませんでした。もし、プリズムでより良い結果を得ようとするならば、プリズムは非常に優れた品質でなければなりません。

8.5インチミラーについては、いつでも都合の良い時にお持ちください。2〜3日で光学的品質のテストができます。ご希望であれば、午前中から午後にかけて行うこともできます。

ポピュラー・アストロノミー誌の5月号に掲載された火星のスケッチに注目しました。

敬具

中村要

(43)1926年5月31日 スコフィールドより中村へ

親愛なる中村さん

27日付の手紙と、私の鏡の再銀メッキの申し出のお返事に感謝します。

事務員からあなたに鏡をお送りします。また、カルバーのプリズムもお送りします。私は再びあなたの天文台を訪れ、あなたの新しい13 1/2 "カルバー鏡を見たいのですが、次の日曜日(6月6日)、正午少し前にそこに到着してもよろしいでしょうか。その際、ケネディ氏の古い友人で、山本先生もご存知のC.ドレッサー氏も一緒に連れて行きたいと考えています。同時に鏡も神戸に持ち帰りたいのですが、いかがでしょうか。

私がお送りした平面鏡は間違いなくカルバーのものです。今お送りしているカルバーのプリズムと比較するのは興味深いことです。また、平面鏡を再銀メッキしていただき、プリズムでもう一度試してみたいのですが。おっしゃるとおり、平面鏡の銀メッキが原因で明瞭度が違っていたのかもしれません。

山本先生から、ピッカリング教授が1924年の我々のスケッチを出版したという連絡がありました。しかし、私は今年から購読を中止しており、ジャマイカからの報告の抜粋を受け取る時間がないので、数日間コピーを取っておいていただけるとありがたいのですが。

私の鏡に銀メッキをして下さることに感謝します。よろしくお願いします。

敬具

(44)1926年5月31日 中村からスコフィールドへ(手書き)

拝啓

ご丁寧なお手紙をありがとうございます。私はカルバーの作品をテストすることができてとてもうれしいです。エリソンがカルバーに勝てるわけはありません。プリズムもテストするつもりです。山本先生は、今ご自宅にいらっしゃると思いますので、お手紙をお見せすることができません。もしあなたがここに来てくださったら、私はとてもうれしいです。山本先生もお喜びになることでしょう。ポピュラー・アストロノミー(5月号)については。山本先生が受け取られました。しかし、天文台図書館には届いていませんので、お渡しできないのが残念です。次の日曜日には、私たちの図書館に届くと思います。

よろしくお願いします。

K. 中村

(45)1926年6月2日 中村からスコフィールドへ(手書き)

親愛なるスコフィールド様

鏡とプリズムを受け取ってからすぐに、それらをテストしました。鏡は、私が期待していた通り、カルバーの優れた作品の好例であることが分かりました。それは素晴らしいものです。

ただし、斜めの影の後に中央に丘があります。F10の放物面は現在でもこれ以上のものは望めません。プリズムは良好ですが、光学的に平面鏡より劣るのは確かです。正方形の1つは完璧ではなく、ガラス自体も若干の歪みを含んでいます。オートコリメーションテストでは平面鏡より劣っているように見えます。像の歪みはありませんが、像の補正が甘いです。どちらが良いとは言えませんが、プリズムは平面鏡に比べて内側にハレーションがあり、外側に核があることが分かります。

両ミラーとも銀メッキが終了し、鮮やかな銀色を得ることができました。

ドレッサー氏が一緒に来て下さるのはとても嬉しいです。来週の日曜日の昼前に山本先生と一緒にお待ちしています。

よろしくお願いします。

K. 中村

(46)1926年6月7日 スコフィールドより中村へ

中村さんへ

焦点距離30インチの4 1/2インチミラーですが、筒の外側を白く塗っていただけませんか。これを8 1/2 "に取り付ければ、もっと快適に観測ができるようになると思います。

リングマイクロメーターが日本で手に入るかどうか、またどこで手に入るかご存知ですか?昨日は大変興味深い時間を過ごさせていただき、ありがとうございました。

敬具

(47)1926年6月12日 中村よりスコフィールドへ(手書き) 

拝啓

ご丁寧なお手紙をありがとうございました。鏡はすでに完成しています。口径は4 1/4インチ、108mm、焦点距離は29インチで、あなたの目的に合うと思います。

研磨が終わったとき、その面は非常に悪いものでした。深い双曲面で、しかも、熟練した光学技術者でも最も難しい、エッジを下げた面をしていました。一度は不可能と思ったことがあるほど、かなり難しい面でしたが、幸いなことに、最も難しい修正研磨の末、放物面化に成功しました。私の経験上、確かに欠陥はありますが、このような欠陥はほとんどの鏡に見られるので、取り除くことは不可能です。特に短焦点反射鏡は難しいです。近々、技術者の手に委ね、鏡筒などを製作する予定です。日射を反射させるために、鏡筒の外側を白く塗ることを理解しました。

図のスリットとネジの間隔を教えてください。

太陽観測用の鏡を作りました。完成したら、それを持って行きたいと思います。

よろしくお願いします。

K. 中村

(48)1926年6月15日 スコフィールドより中村へ

中村さんへ

12日付のお便り、ありがとうございました。4 1/4インチ鏡の件では、ご苦労をおかけしました。実に素早いお仕事ですね。このような短焦点鏡の製作は大変なことだったと思います。

平面鏡だけでなく、主鏡の銀メッキもお願いします。反射率が十分でないと思いますので。

6.1/2 インチ無メッキアーヴィング鏡は、2 インチ屈折よりも光量が弱く、いくつかのプロミネンスは非常に淡かったことを思い出しました。4 1/4 インチ鏡は、光が強すぎたり、気流によるトラブルがあれば、いつでも無メッキ化できるのですが、直径6 インチなどの十分な広さの筒を作れば、この点でのトラブルはないと思います。4 1/2インチ エリソン鏡でもトラブルがなかったと記憶しています。

ドローチューブのスリットからアイエンドまでの距離は1インチですが、ラックとピニオンのマウントは2インチ以下の長さになるように作ってください。私の8 1/2 インチカルバーは2 1/4 インチしかありません。多くのメーカーの大きな欠点は、この部分が全く長すぎることです。

私は出張の際、この望遠鏡を携行し、可能な限り観測を続けたいと考えていますので、鏡筒とセルはできるだけ軽量なものを希望します。私は、この架台のための三脚は持っています。

上記で分かりにくいかもしれませんから、一応スケッチを同封します。すでに技術者に依頼されている場合は、不可能と思われる点については無視してください。

ご面倒をおかけしますが、よろしくお願いします。

(49)1926年7月1日 中村からスコフィールドへ(手書き) 

拝啓

昨日、製作所に行ってきました。4 1/4 インチ反射鏡の作業はかなり進んでいました。接眼レンズのラックモーションを除く全ての金属部品が組み立てられる状態になっていました。

私は勝手に鏡筒の直径を6インチから5.5インチに変更しました。このままでは熱流が発生する可能性があるため、非金属で覆いました。ミラーセルはやや大きめで重くしましたが、全体の重さは片手で楽に持ち上げられる程度です。組み立ては10日ほどで完了する予定です。完成後テストを行い、今月中旬にはお届けできると思います。

よろしくお願いします。

K. 中村

(50)1926年7月7日 スコフィールドより中村へ

中村さんへ。

1日付のお手紙、ありがとうございました。4 1/4 インチ太陽用反射望遠鏡が今月半ばに完成する予定とのことで、うれしく思います。

わざわざ持ってきていただく必要はないのですが、もし神戸に用事があるようでしたら、25日の日曜日に一日一緒にお過ごしいただければと思います。もしおいでになるなら、どの電車かお知らせください。

私はこれまで火星のスケッチを3枚しか描けませんでした。シーイングが非常に悪く、細部まで見ることができませんでした。

「山本博士宛の書簡在中」

(51)1926年7月13日 スコフィールドより中村へ

親愛なる中村さん

5日付の手紙に、山本先生宛の6月の太陽プロミネンスのレポートを同封しました。しかし、何の連絡もなかったので、私の手紙が郵便物の中に紛れ込んでしまったのではないかと心配しています。

ピッカリング教授から火星35号の報告書のコピーを受け取ったところですが、7インチ・ツァイスの素晴らしい観測について、お祝いを申し上げます。日本では観測者を増やせないのが残念です。

エリソン博士の望遠鏡がそれほど大きくないことを見ると、私たちはいつも非常によく似たものを、ピッカリングが見たように見ていることに気が付きました。また、このような視覚的な作業には、巨大な望遠鏡はほとんど役に立たないとも思われます。

もしあなたが7月5日の手紙を受け取っていないなら、私は、もし都合がよければ25日にあなたに喜んでお会いしたいと書きました。

敬具

(出典)

「山本天文台資料より」


中村鏡とクック25cm望遠鏡

2016年3月、1943年製の15cm反射望遠鏡を購入しました。ミラーの裏面には、「Kaname Nakamura maker」のサインがありました。この日が、日本の反射鏡研磨の名人との出会いの日となりました。GFRP反射鏡筒として現代に蘇った夭折の天才の姿を、天体写真等でご紹介します。また、同時代に生きたキラ星のような天文家達を、同時期に製造されたクック25cm望遠鏡の話題と共にお送りします。

2コメント

  • 1000 / 1000

  • double_cluster

    2022.06.13 00:12

    コメントをいつもありがとうございます。掲載しながら、中村要氏とスコフィールド氏の息遣いを感じています。二人にとって、同レベルでコミュニケーションが取れるお互いの存在は、とても貴重なものだったんでしょうね。
  • manami.sh

    2022.06.12 21:49

    エリソン、カルバーの鏡の優劣、火星の模様についての見え方等、両氏の関心事がうかがえます。訳出ありがとうございます。