(名人たちの言葉より)
「反射屈折天体望遠鏡作り方観測手引」(中村要著、新光社)は、1929年(昭和4)8月3日発行の、中村要氏3冊目の著書です。内容は、第一編反射望遠鏡、第二編屈折望遠鏡、第三編観測の手引、附録となっています。少し古い記述はありますが、どの項目もきちんとした内容で、氏の人柄がよく分かる優れた著作だと思います。
この中で中村要氏は、「筆者も正直な所を書くなれば、同じ口径のものなれば、世話のいらない屈折の方を選ぶ。現在天文台に居って使用上制限を受けない自用の望遠鏡には、大分以前から持っているエリソン氏の16cm鏡をつけた経緯台の反射望遠鏡(自作の同口径同焦点の予備鏡もある)と、自作の5cmレンズをつけた小屈折鏡を持っている。良い屈折を持つ事は自分の長い間の宿題であり、10年振りにその希望を満たしたが、8cmはどうも贅沢に思ったので完全な付属品を備えた5cmにした。反射望遠鏡も自分のような6尺(約180cm)近い大男でありながら、毎日使うには13cm鏡がよさそうに思う。
望遠鏡を実用品として見れば、その大小、良否は大した問題ではない。望遠鏡がその大きさに相当した能率を挙げるのは全く使用する人の技量次第である。望遠鏡を作る人で3個も4個も作ったり、或いは持ったり、また度々望遠鏡を変える人もあるが、同じ望遠鏡を使い慣れて始めてその価値がある。同じ倍率の接眼レンズを絶えず使って始めてよく観測することができる。軽便な充実した望遠鏡を持ち且つよく使うのが最も良い方法であると信ずる。」
(反射屈折天体望遠鏡作り方観測手引・中村要著・新光社 P.207-208)と、反射鏡研磨の名人としては意外なことも吐露しています。
現代の光学エンジニア、テレビュー社のアル・ナグラー氏は「最もよい望遠鏡とは、最もよく使う望遠鏡」(テレビュージャパンHPより)、TMBオプティカルの故トマス・バック氏は、「あなたがどのような望遠鏡を持っているかよりも、その望遠鏡がどれだけの精度を持っているかよりも、ただ夜空を見上げて神様が作った雄大な宇宙を楽しんで下さい。」(国際光器HP、「Cloudy Night:トマス・バック氏へのインタビューより)と、中村要氏と同様なことを述べています。星を愛する者として、肝に銘じたい珠玉の言葉です。
ちなみに、中村要氏は180cm近い体格の持ち主でした。上記の写真から、当時としては規格外の体の大きさであったことがうかがえます。
[1枚目:「完成した7cm反射鏡を前に」右:中村要氏・左:池西氏、花山天文台露台にて、1931年(昭和6)11月19日撮影、2枚目:「倉敷天文台メンバー」前列右から中藤益之介氏、原澄治氏、山本一清氏、宮原節氏、後列右から小川龍五郎氏、中村要氏、水野千里氏、1929年(昭和4)11月23日撮影、3,4枚目「反射屈折天体望遠鏡作り方観測手引」(中村要著、新光社)]
(写真は全て伊達英太郎氏天文写真帖より)
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