月の異常現象は、1540年から報告されています。これはLTP(Lunar Transient Phenomena)と言われ、アメリカのミドルハーストが、1967年までの約540件をカタログにまとめているます。定義は、位相(満ち欠け)には関係のない月面上の狭い地域で起こる一時的な変化です。変化の種類としては、クレーター内部や、そのほかの狭い地域での一時的な輝点やかすみ・ぼけなどがあります。
カタログのLTP上位の地域は、アリスタルコス周辺、プラトー、アルフォンスス、アグリッパ、ガッセンディ、ティコ、プロクラス、シュレーター谷等。しかし、LTPの大部分は、望遠鏡の色収差や月が低高度にある場合の大気差による着色等が原因と言われています。しかし別の文献によれば、LTPの分布に地域性があるため、原因は月自体にあるのではないかと言う説があります。たまたま、月内部からのガス放出を見た可能性も否定できません。実際、スペクトル観測で炭素や水素分子が検出された例が一部にはあります。
今回ご紹介する資料は、火星スケッチでもご紹介した、樋口敏一氏のLTPの観測記録です。1939年(昭和14)〜1940年(昭和15)に、東亜天文協会遊星面課宛てに、細かい字でビッシリと書いた観測報告を寄せています。ここには、プラトー等のLTPを確認しようと、熱心な観測を行なったことが書かれています。しかし、結論としては、LTPは確認できずということでした。
人騒がせなLTPですが、今も隕石の衝突による発光は、時折見られるそうです。運が良ければ、今晩LTPを目撃することができるかもしれません。
(手紙は、伊達英太郎氏天文蒐集帳より。なお、3枚目の報告地図を描いた際、樋口氏は東京に下宿中で、手元に月面図を持ち合わせていなかったそうです。)
参考文献:月の地形ガイド,白尾元理,誠文堂新光社
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