かつてクック25cm屈折望遠鏡に同架されていた、口径4インチ(101.6mm)焦点距離27.3インチ(693.42mm)F6.8の写真機です。レンズは、凸凹凸の3枚構成。有名なクックのトリプレットです。現在は、クック25cm屈折望遠鏡のドーム内に展示保存されています。
右端の四角い板がシャッターの役目をします。長時間露出をする必要から、蓋を跳ね上げるような構造になっています。続いてフード、黒い部分がレンズユニット、そして鏡筒です。左端がガラス乾板をセットする部分です。
「10cm天体写真機 25cm屈折望遠鏡とともに英国クック会社より購入したものです。戦前、海洋気象台(神戸)で太陽の写真撮影や皆既日食観測のため海外に出張した日本の観測隊が何回も使用した歴史のある天体写真機です。」という説明がプレートに書かれています。
天文月報(日本天文学会)を調べてみると、1936年北海道皆既日食(利尻島)・1941年石垣島皆既日食・1943年釧路皆既日食で、東京天文台が使用したことが分かりました。
1893年にクック社のH.D.テイラー(H.Dennis Taylor 1862-1943)が、ザイデルの5収差(球面収差・コマ収差・非点収差・像面の湾曲・像の歪曲)全部をほぼ補正したトリプレットレンズを設計することに成功しました。ガラスはその時代既に開発されていた、クラウンガラスとフリントガラスが使われました。画期的な大発明でした。H.D.テイラーが設計した最初のトリプレットは、F6.8とF9だったことから、ご紹介する写真撮影用レンズは、初期の設計の製品と思われます。
当時のクック社は研究開発にとても寛容で、H.D.テイラーが、他社(テイラー・テイラー・ホブソン社、Taylor, Taylor-Hobson社、同じテイラーだが別人)でこの設計を元に写真レンズを製造販売することを禁じませんでした。テイラー・テイラー・ホブソン社は、H.D.テイラーの雇い主に敬意を表して、写真レンズにクックのトリプレットと名付けました。余談ですが、テイラー・テイラー・ホブソン社の創業者の一人、ウィリアム・テイラーは、ゴルフの「ディンプルボール」の設計製造(特許取得)でも有名な人物です。
レンズユニットを立てた状態です。四角いシャッター板が下になっています。ピントは、上のネジ込み部分を回転させることによって合わせます。ネジ込み部の端に目盛りが付いています。
この写真を見ると、ガラス乾板側の凸レンズと真ん中の凹レンズとの間は、かなり距離があることが分かります。
これは、前側の凸レンズです。凹レンズが収められているセルの光軸修正ネジが、かすかに見えます。3か所に押し引きネジが付いています。
上の写真は、乾板取り付け枠にはめて、ピントを確認する木枠付きのスリガラス板です。よく見ると、中央に×マークが付けられています。枠板の素材は、クック望遠鏡の微動桿と同じローズウッドでしょう。切り込み部があるので、瞬時に取り付け、取り外しができるようになっています。
神戸のクック25cm屈折望遠鏡が製造100年を迎える2023年。その誕生100周年イベントの一つとして、クックトリプレット10cm写真機を復活(CMOSカメラ撮影用として)させることができたらなと夢見ています。
ところで、クック社(T.Cooke&Sons)は、1922年から合併を繰り返し、1939年にはVickers社に吸収合併されています。しかし、Taylor,Taylor-Hobson社はHobson社として現在も測定機器大手として存続しています。Cooke Optics社は、Hobson社のレンズ製造部門として1998年に独立。映画用撮影レンズの製造を続けている名門です。(リンク先のCooke Optics社ABOUT USの動画はとても興味深いです。)
(参考文献)
カメラマンのための写真レンズの科学,吉田正太郎,地人書館,1979
写真レンズの歴史,ルドルフ・キングズレーク・雄倉保行訳,朝日ソノラマ,1999
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