ロサップ島皆既日食(58)

昭和9年南洋ロソツプ島に於ける日食観測に派遣せられし顛末(13)

       此の方面を担当せしむる部下もなかりしを以て殆んど彼等に委せて大なる便利を得た

       り。

121 約30張の天幕の展張及捲畳は素人には出来ざることにして全部彼等の手を要せり。

122 其の他命ぜざるに自ら動き、互に議すること少きも順序良く事を運び僅に7名の手を遣繰

  (やりくり)融通して夙夜勤勉、寸暇なかりしこと流石は経験を積みたる者なりと感ぜし

       めたり。給金は南洋庁の都合上水路部よりも低く、船夫長2円50銭、他は2円20銭なり。

123 料理人は経理学校教官に依頼して推薦せられたる者なりしが、調理の技量は優秀にして

       外国人始め観測隊の好評を博したるも、会計経理の能力殆んどなく為に繁忙なる幹事を

       煩わせしこと多大なりき。給金5円。

124 給仕は経理学校嘱託に依頼して推薦せられたる者なりしが、人物技量共に優秀にして外

       国人を始め観測隊の賞賛を博せり。

14 地磁気に関する観測

125 主任務の傍、日食に関係ある地磁気方面の観測を行いたき希望を以て、自記偏差儀一基の

       準備を桑原技師に依頼して之を携行せり。之を設置せしはレオール島観測地帯の最東端

       なり。器械の設置に就ては速水、東中両嘱託、観測に就ては川崎南洋庁観測所長の助力

       を得て之を行いしが、観測準備に相当の困難ありて実際観測を始めたるは2月13日朝にし

       て16日夕終れり。

126 本観測の結果に就て概言すれば皆既日食当時偏差に顕著なる変化を生じたることは偏差

       儀の明かに示す所なり。詳細は上海自然科学研究所員たる両嘱託の観測結果をも参照し

       別途報告並に発表する予定なり。

15 所感

127 観測隊は其の編成の示すが如く各独立せる団体而かも概ね研究の独立、自由を高調する

       学者の集合にして素より軍隊の如き団体生活に慣れず。個々の団体自体内に於ても亦軍隊

       内に於けるが如き指揮服従の関係確立せるものに非ず。

       小官は連絡掛としても幹事としても全体を統率する権限あるものにあらずして単に共同

  生活の便宜の為統制を取るに過ぎず、斯くの如き団体を纏めて内務を運転し又海上作業

       の世話をするに当り最も苦痛とせしことは手不足なりき。少くとも常識円満なる兵科初

       級将校1名を従属せしめられ得たらんにはとは屡次(るじ:しばしば)感じたる所な

       り。幸にして技研伊藤造兵少佐が技術者として繁忙寸暇なきに拘らず時に好意的に進ん

       で助力を与えられたる為、便宜を受けたること甚大なりき。

128 東京天文台、東京帝大、京都帝大、共に文部省の所管にして同様の性質を有するに拘ら

  ず、観測に関する会計経理の方法を別にし、且幹部は会計法規に慣れざる人なりしを以て

  費用の精算、出納、殊に共同なる費用の負担配分法等容易に纏まらず、小官は元来観測隊

  の公の会計に迄立入る義務も責任も有せざる者なれども、臨時突堤構築、平栄丸傭用等

  各班間の協議に俟(ま)つ事項を生じたる故に之にも関与せざるを得ざるに至り、甚し

  く煩わされたり。文部省は須(すべか)らく全予算を各班に配分することなく、中央に

  於て若干を控除し出先には会計に堪能なる専門家を派遣し一括して其の手より支出すべ

  きものとの意見を文部省当事者に話し置けり。

(引用)

故秋吉利雄氏保存資料

中村鏡とクック25cm望遠鏡

2016年3月、1943年製の15cm反射望遠鏡を購入しました。ミラーの裏面には、「Kaname Nakamura maker」のサインがありました。この日が、日本の反射鏡研磨の名人との出会いの日となりました。GFRP反射鏡筒として現代に蘇った夭折の天才の姿を、天体写真等でご紹介します。また、同時代に生きたキラ星のような天文家達を、同時期に製造されたクック25cm望遠鏡の話題と共にお送りします。

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