20世紀初頭、日本のアマチュア天文家がどうしてあれほど真剣に天文に打ち込んだのか。私は、そのことをいつも疑問に感じていました。その疑問に、明確な回答を示してくれたのがこの本です。
著者の小暮智一氏(こぐれともかず)は、1926年群馬県桐生市生まれ。1950年京都大学理学部卒業(宇宙物理学専攻)。高校教諭を経て、京都大学助手(理学部宇宙物理学教室)、茨城大学理学部教授(宇宙物理学担当)、京都大学理学部教授(銀河物理学担当)を歴任。退官後、岡山県美星町立美星天文台長に就いておられました。
本書は、4部から構成されています。第1部 天体分光学、第2部 恒星内部構造論と星の進化論、第3部 天空の探索と銀河系、宇宙の構造、第4部 「現代天文学」(日本における天体物理学の黎明と、1950年~1980年にかけての現代天文学への展開)です。
どの章も、その時代に活躍した人物にスポットを当て、その人物の学説や生きざまを描いています。文章は明解で、とても読みやすいです。
本書が述べている点は3つ。
1.どの3つの天文学分野も、アマチュア(音楽家、事業家、医師、弁護士、技術者など)が、最初の扉を開いたこと。
2.どの分野も、18世紀の終わりから、20世紀の初頭に姿を見せていること。
3.20世紀半ば(1940年代)になると、いずれの分野もアマチュア天文家の手から離れ、研究者集団へと重心が移ったこと。(観測装置の大型化、天体の組織的研究など)
ところで、京都帝国大学の山本一清氏(1889-1959)は、新星や変光星の連続観測の重要性から、アマチュア天文家との連携の必要性を感じ、1920年(大正9)に古川龍城氏らと共に天文同好会(後の東亜天文学会)を創設しました。その後、山本一清氏は、1922年(大正11)9月から2年あまり、アメリカ(ヤーキス天文台・ハーバード大学天文台)やヨーロッパに留学し、本場の天体物理学に触れています。1920年から1940年までの約20年間(1929年世界大恐慌、1937年日中戦争、1941年太平洋戦争開戦)は、激動の時代であり、天文学的に大発見が繰り返される中、アマチュア天文家は天文学に寄与しようと、正に命がけで観測に精進したのだと思いました。
この本は、手許に置きたい良書だと思います。
(参照:「現代天文学史-天体物理学の源流と開拓者たち-」小暮智一、京都大学学術出版会)
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