無メッキ反射鏡による太陽写真(3)

小反射望遠鏡による太陽写真 伊達英太郎 1938年(昭和13)5月6日

3.フィルターと感光材料

 この両者は、太陽写真における最も重用なるもので、品質・性質共に良好にして且つ適切なるものを選出しなければならない。テストは即ちこの両者の相対関係を研究選出する道程なのであって、一度両者の適当したものが選出できれば以後はただ、太陽光度、季節、空の清澄度等に応じて、シャッター速度、口径絞り等により加減していくのが正当な方法ですが、筆者の場合、シャッターが名も知れぬよい加減なもので、それに反射鏡の欠点たる斜鏡による回折現象を考慮すると、絞りを用いることの不利なことが分かりますから、筆者はフィルターを2個用い、1個は主フィルターとしてアイピースの前方に(第2図A)おき、(これは取り外しが大儀)副フィルターを2~3種(淡黄色から濃黄色まで)用意し、適宜その時のコンディションに応じて、万能ホルダーに入れ、アイピースのキャップに取り付けて(第2図C)自由に取り替えてコントロールするという姑息な手段を講じていますが、本当は上記のごとく、コンプア等の最高級レンズシャッターを用い、1/10秒から1/300秒位の間の速度と、屈折ならば絞りを適当に使用してコントロールするのが至当でしょう。なお、大型のソルントン及びフォーカルプレンシャッターは震動が甚だしいので、特に安定の悪い経緯台には不適当である。なお、目下使用しているシャッターは二枚羽根で、これが為、像の上下が露出不足になる欠点があり、三枚羽根のシャッターに(できればコンプア)を用いるのが像の為には良い。

 フィルターはガラスとガラスの間に着色ゼラチンを挟んだいわゆるサンドウィッチフィルターは熱と光のために日時の経るにつれ退色する恐れがあるから、ガラスその物に着色したフィルター(ソリッドグラスフィルター)が良く、国産品としてクロス、エヒト、ハンザ等がある。

 感光材料は種々雑多その選択に迷うが、清水氏のご教示と筆者のこれまでの経験により、富士プロセス乾板を常用している。フィルターと感光材料の関係は、出来上がる原板に対しなかなか重大で、B.A.A(ブリテン天文協会)の会誌に発表されたセシル・メビイ氏の「小眼視屈折望遠鏡による太陽黒点写真」なる論文中に・・・・

①イルフォード”Astra”乾板に橙赤色フィルター使用ー太陽面の米粒組織や白斑が良く撮影できる。

②イルフォード”Process”乾板に緑色フィルター使用ー同上、但しアンブラは寧ろ露出不足である。

③イムペリアル”Eclipse Ortho”に橙赤色フィルター使用ー米粒組織や白斑はうまく写らないか或いは全然写らない。黒点は寧ろフラットに過ぎる。併し非常に細かいディテールとシャープな像を現す。

・・・・と記している。”アストラ”や”エクリプス・オルソ”を使用した経験がないので、果たしてどんなものか不明ですが、テスト中に一度富士AI乾板(オルソ)に橙赤色フィルターを用いて撮影したものは、白斑及び米粒組織がプロセス・黄緑色フィルターのコンビに比較して非常に悪く殆んど認められないことを実験したことがあります。

 結局、毎日の現像その他の取り扱いが明るい暗室安全光(筆者はブロマイド用の橙赤色安全ガラスを使用)で処理できる点・微粒子である点・コントラストの強い点から、我々アマチュア天文家にはプロセス乾板に黄緑色フィルターのコンビが適当しているようです。筆者は富士プロセス乾板(撮影に先立ち、バッキングソリューション(裏引き液)を塗布し、現像の前に拭き取る)を用い、フィルターは主の方をクロスG2(濃緑色)、副の方は同じくY2~Y4(淡黄色から濃黄色)を使用し、副の方を適宜取り替え使用している。シャッターは常に1/100秒を切っており、絞りは上記の理由で使用しません。常に全口径開放です。

 ここでバッキングについて一寸述べておきます。バッキング(裏引き)は、プロセス乾板式は普通乾板等ハレーション防止層の無い或いは裏引きのしてない乾板の裏面(ガラス側)に赤色の液を塗布乾燥させて強い光輝物の撮影に当り、ハレーションを防止して、画像を鮮明たらしむる為に施す操作で、この目的の為に各会社からバッキングソリューション(裏引き液)を売り出していますから、これを使用するのが最も簡便かつ好成績ですから、わざわざ自製する必要はありません。中村氏著の「天体写真術」中に墨汁とグリセリンを混じて出来る・・・由記してありますが、筆者の実験ではこの方法は乾燥に長時間を要し、長い期間取り枠へ入れっ放しにしておくと湿気の好感光膜面に異常を招来する原因となりますからやはり塗布するとすぐ後から乾いていく既製品が良く、筆者はオリエンタル社のバッキング・ソリューションを常用して好結果を得ています。

 さて、裏引きは果たして効果があるや否や・・・という点に疑問を抱き、且つ、前記セシル・メビイ氏の論文中に「塗布したのと、せぬのとは大差を認めない」とあるので、五月の上旬、数日間に渉って同一条件のもとに、裏引きしたのとせぬのとを用いてテストしました結果、塗布した乾板が適度の露出でディテールも美しいに関わらず、塗布せざる方は像が濃く、ディテールが不鮮明でテストの都度同じ結果を示しますので、筆者は面倒でも必ずバッキングを施すべし・・・と断言して憚りません。僅かの面倒さが像の鮮鋭度に非常に影響するものでありますから。

 以上の方法で、気流状態が中以上なれば、大抵白斑米粒組織は写っており、気流良好の場合米粒組織の美しさは流石に反射鏡の像の鋭さを明白に物語っています。黒点も極小のものより(勿論眼視ほど細かいものは写りませんが)、極大のものになるとペナンブラ中の縞まで認められる程の像を結びます。

(写真・資料は伊達英太郎氏保管)

中村鏡とクック25cm望遠鏡

2016年3月、1943年製の15cm反射望遠鏡を購入しました。ミラーの裏面には、「Kaname Nakamura maker」のサインがありました。この日が、日本の反射鏡研磨の名人との出会いの日となりました。GFRP反射鏡筒として現代に蘇った夭折の天才の姿を、天体写真等でご紹介します。また、同時代に生きたキラ星のような天文家達を、同時期に製造されたクック25cm望遠鏡の話題と共にお送りします。

2コメント

  • 1000 / 1000

  • double_cluster

    2021.09.05 03:39

    日中の暑さはまだまだですが、朝夕は過ごしやすくなってきました。いつもコメントをありがとうございます。伊達氏の資料と写真を公開していて改めて思うのですが、伊達氏は領収書や関係書類を豊富にきちんと、しかも時系列に整理・保管しています。まさに、アマチュア天文史のタイムカプセルのようです。
  • manami.sh

    2021.09.04 13:32

    当地では、暑さが和らぎ、夜は寝やすくなりました。 太陽面は、ここしばらく、低調なように思われます。 私も、平成25年~26年頃、ペンシルボーグ(D=25mm,f=175mm)にPentax Q10で太陽観測をしていた時期がありました。 戦前・戦後の頃の写真では、大黒点群で太陽面はあふれかえっていたように思います。そうゆう印象が強いです。 黒点群の変化は、ダイナミックだったんだろうなと思います。そういう時期に観測できなかったのは 残念に思いますが、もっとも太陽観測とは、ほとんど縁がなかったので。 伊達氏については、写真の現像・焼き付けも手間がかかっていたと思いますが、楽しかったのではないでしょうか。