中村要氏は、天文学者として、多岐にわたる方面に業績を残しています。1921年(大正10)から、亡くなる1932年(昭和7)までの12年間に、流星・彗星・変光星・火星・小惑星(京大では小遊星)・天体写真・反射鏡研磨等の研究を行いました。それぞれの分野の日本におけるパイオニアの一人であり、今回ご紹介する天体写真術においても、当然日本の第一人者でした。
中村要氏の著書は、5冊あります。その中の1冊は、著者が逝去してから、山本一清氏と木辺成麿氏が編集し出版したものなので、存命中のものは4冊になります。「天体写真術」の「はしがき」が書かれたのは1932年6月です。亡くなる4ケ月前でした。これが、最後の著書となりました。
内容は、第1章「天体写真術」第2章「天体写真用レンズ」第3章「赤道儀」第4章「天体写真撮影の諸装置」第5章「各天体の撮影法」第6章「乾板の処理法」第7章「原板の処理法」第8章「位置の測定法」です。内容的には、京都大学花山天文台をはじめとする、いわゆる、プロの現場での撮影法の紹介がほとんどです。まだ、アマチュアが使える撮影機材が乏しかった時代ですから、仕方がなかったのでしょう。
長時間露出による小遊星や彗星、星雲星団の写真も多数掲載されています。中には、中村氏が作製した11cm写真レンズによる北極星付近の固定撮影写真、スマトラ日食のために作製した10cm(f970cm)レンズによる太陽コロナ写真もあります。また、自作の11cm写真レンズでは力不足なので、今後22cm写真レンズを作製していく予定であるとの記述も残っています。
今読んでも中村要氏の文章は簡潔で、内容は明快です。
(1枚目:1924年1月5日ブラッシャー25cm反射望遠鏡によるアンドロメダ銀河・露出76分、2枚目:1930年2月20日5cmレンズによるオリオン大星雲付近・露出156分、いずれも中村要氏撮影、現在花山天文台で販売されている絵葉書のうちの2枚、3枚目:伊達英太郎氏天文写真帖にあった、中村氏撮影のオリオン座付近、6枚目:1932年(昭和4)12月に発行された「天界」140号に掲載された「天体写真術」の広告、この号は中村要氏追悼号でした。)
(追記)
(日本天文学会「天文月報」(昭和7年11月号,第二十五巻第十一號)に掲載された「天体写真術」の広告)
(参考文献)
中村要、天体写真術、恒星社厚生閣、1932年
冨田良雄・久保田諄、中村要と反射望遠鏡、かもがわ出版、2000年
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