中村要氏製作25cmF3.8反射望遠鏡

 中村要氏は、1930年(昭和5)暮れ、生涯最大口径になった25cmF3.8(口径248mm焦点距離947mm)反射鏡を製作しています。これは、以前にもご紹介した、花山天文台の柴田淑次氏の依頼によるものです。ちなみに、柴田淑次氏は、1956年(昭和31)6月5日〜1960年(昭和35)3月20日にかけて、神戸海洋気象台の台長でした。神戸海洋気象台にあった、クック25cm屈折望遠鏡のすぐ近くにおられたことになります。

 木辺氏によると、中村氏は製作に難渋し、3回やり直して仕上げたそうです。この鏡面はマウンティングと共に、後年大阪市立電気科学館へ売却され、カセニュートンタイプに改作されました。副鏡は木辺氏が作製しました。その際、木辺氏は詳しく鏡面をテストされ、中村氏にしては良い作品ではなかったということを述べています。F3.8という深いカーブ面の整型を、中村氏はまだマスターしていなかったようです。中村氏は、20cm鏡を生涯で4面しか製作しませんでした。

 大阪電気科学館へ売却された25cm反射赤道儀は、1945年(昭和20)5月の空襲で消失しました。1枚目の写真左側が、カセニュートンタイプに改作された25cm反射赤道儀、右側は15cmニュートン式反射赤道儀です。2枚目の写真は、25cm反射赤道儀と西村繁次郎氏です。

 この25cmの鏡面は傷つきはしましたが、消失は免れました。それが、リンクでご紹介する後日談です。1949年(昭和24)にこの25cm鏡を入手された松本達二郎氏は、鏡面研磨や火星観測を長くされた方であり、伊達英太郎氏の薫陶を受けられた方でした。

(参考文献)

日本アマチュア天文史,日本アマチュア天文史編纂会,恒星社厚生閣,1987

中村要と反射望遠鏡,冨田良雄・久保田諄著,かもがわ出版,2000

(写真は伊達英太郎氏天文写真帖より)


(火星課だより) 松本達二郎氏の中村鏡と火星

(火星課だより) 松本達二郎氏の中村鏡と火星 南 政 次 M. MINAMI『天界』2010年九月号掲載中村要氏(1904~1932)という方は、OAAの火星観測の先驅であり、また国際的にも名の通った方であったが、早世したためその火星観測の業績が纏まってわれわれに届いているとは言えない。しかし、鏡面研磨技術の先驅としては名を留めているし、火星観測でも1924年の大接近の時はいまでは悪名高きW. H. ピッカリング氏とも接触し「あなたの6枚セットのスケッチをReport of Marsに掲載します」といったような返信を貰っている。中村氏の火星観測は1920年の10cm屈折に始まり、翌年には花山天文台に入り、1922年には有名な18cmザルトリウス屈折で観測しているし、25cmのブラッシャー鏡も使っている。何と言っても彼の黄金期は1924年、1926年であったろう。1928年にはクック屈折鏡も使えた筈である。 扨てここで紹介する25cm F/3.8短焦点鏡は1930年に京大の柴田淑次氏の求めに応じて作られたものらしく、架台は西村製作所製で、よく知られた伊達鏡の架台とよく似ている。ここにカットとして入れる当時の望遠鏡の写真は松本達二郎氏所有の中村要『反射望遠鏡』(山本一清氏編著、1942年初版、1944年に三版)の頁から複写して頂いたもので、画像は(紙質の所為で)好くないが、冩眞反射鏡の文字は見える。この望遠鏡は、多分彗星や小惑星用に制作されたのではないと松本氏はお考えだが、その成果はご覧になったことはないそうである。 この「中村鏡」を松本氏が落手されたのは1949年頃で半ば偶然だった様だ。当時軍用や工場の放出品が巷に溢れ、殆どが(天文観測用には)ガラクタだったようだが、中に裏面にNKM195と記載された反射鏡があったので直ぐ入手された由である。記号はむかし木辺成麿氏(1912~1990)が『天界』に書かれていたことがヒントになったようだ。ただ外見は煤けて、アルミ面も汚れ、疵も多くあったらしい。尤も使うあてがある譯ではなく、1970年まで放って置かれた様で、この頃清掃がてらアルミナイズし直されたらしいが、疵等はそのままであった。その後2001年頃から部品等も集め、アルミ製の鏡筒等も作り、ペンタックスのMS-5架台に載せた完成品が、写真の様な形になった訳である。 松本達二郎

www.kwasan.kyoto-u.ac.jp

中村鏡とクック25cm望遠鏡

2016年3月、1943年製の15cm反射望遠鏡を購入しました。ミラーの裏面には、「Kaname Nakamura maker」のサインがありました。この日が、日本の反射鏡研磨の名人との出会いの日となりました。GFRP反射鏡筒として現代に蘇った夭折の天才の姿を、天体写真等でご紹介します。また、同時代に生きたキラ星のような天文家達を、同時期に製造されたクック25cm望遠鏡の話題と共にお送りします。

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