金星と土星の掩蔽(1)

 1933年(昭和8)12月20日、月齢3の月に、金星と土星が次々に隠されるという珍しい現象が起こりました。上は、「天界」(1933年12月号、東亜天文協会)に掲載された解説記事です。この現象の様子を、「日本アマチュア天文史」(日本アマチュア天文史編纂会編、恒星社厚生閣、P.90)から抜粋してご紹介します。

 「当日は晴れて澄んだ師走の西空の夕映の残るあたり、相模大山のシルエットの上に三日月をはさんで、土星と金星のならんだ景色は実に美しい眺めであった。(中略)石井重雄が「天文月報」Vol.27(1934)No.3に要約して報告している。冒頭に石井はその美しい光景を「天の海に雲の波立ち月の船、星の林にこぎかくる見ゆ」なる万葉集の古歌をひき賞でている。」

 この珍しい天文現象を、神戸・須磨の「射場天体観測所」射場保昭氏が、上の双写真望遠鏡(純国産)で撮影しています。1920年代が、日本のアマチュア天文家による天体写真の幕開けの時代でしたから、射場氏は静岡の清水氏と並ぶ天体写真のパイオニア的存在でした。

 双写真望遠鏡で撮影すると、1つの写真乾板に怪しげな星像が写っていても、もう一方で確認することができます。この双写真望遠鏡もそうですが、射場氏の観測機材は天文台をも凌ぐ規模と質を誇っていました。

 上の2枚の写真は、金星が月の明るい部分から出現したところです。それぞれ別のカメラで撮影されています。(写真の手書きのサインは、射場氏によるものです。)

 土星が月の暗部側に潜入しようとしています。微妙に露出が違うのか、上の写真には対日照がよく写っています。

 土星が月の明部から出現してきたところです。

 伊達英太郎氏も、当時少なかった天体写真撮影者でしたから、射場氏から貴重な資料の提供を受けたのでしょう。次回は、静岡市の清水真一氏が撮影された、金星と土星の掩蔽の写真をご紹介したいと思います。

(2~7枚目の写真は、伊達英太郎氏天文写真帖より)

参考文献:日本アマチュア天文史,日本アマチュア天文史編纂会,恒星社厚生閣,1987

中村鏡とクック25cm望遠鏡

2016年3月、1943年製の15cm反射望遠鏡を購入しました。ミラーの裏面には、「Kaname Nakamura maker」のサインがありました。この日が、日本の反射鏡研磨の名人との出会いの日となりました。GFRP反射鏡筒として現代に蘇った夭折の天才の姿を、天体写真等でご紹介します。また、同時代に生きたキラ星のような天文家達を、同時期に製造されたクック25cm望遠鏡の話題と共にお送りします。

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